不動産市場

空き家を減らせ!ホームインスペクションによる中古住宅流通活性化

住宅購入と言えば「新築」とつい考えてしまう我が国の住宅事情。増え続ける空き家が引き起こす問題を解決するにはどうしても中古住宅の流通を活性化させねばなりません。住宅について専門知識を持たない一般の購入希望者さんがどうやったら安心して中古住宅を買えようになるのか。空家が増える事の示す意味やその原因を探りつつ、どうしたらその状況を解決できるのかを考えてみたいと思います。

背景

総住宅数に占めている空き家(誰も住んでいない家)の割合のことを「空き家率」と言います。わが国ではこの空家率が年々上昇し続け、2013年時点で13.5%に達しています。このまま上昇し続けると2033年には空き家率が28.5%にまで上昇すると試算されているのです。空き家が放置されれば、劣化により倒壊したり、不審者の侵入、放火、不法投棄の危険性が増すなど周囲に悪影響を及ぼす事も考えられます。このまま空き家が増え続ければ、住環境の安全が損なわれてしまうばかりか、ストック住宅を有効に活用しないことによる経済的損失も増え続けてしまいます。

国土交通省によると日本の全住宅流通に占める中古住宅のシェアは2013年時点で約14.7%。欧米諸国の7割~9割程度と比べると明らかに小さい事がわかります。下図をご覧ください。

中古住宅流通シェア比較
欧米諸国と日本とでは住宅の耐用年数や建築法が異なるため単純に比較することはできません。それにしても、日本では新築住宅が約85%で中古住宅がわずか15%弱、イギリスだと新築住宅がわずか12%で中古住宅が88%と言うのはあまりに違いすぎますよね。フランスはやや新築住宅の流通が多いものの、それでも新築住宅が31%強、中古住宅が69%弱なのですよ。そしてアメリカではイギリス同様新築が17%弱、中古住宅が83%強と中古住宅の流通が活発です。いかに欧米諸国では中古住宅の流通が活発化か、そして日本の中古住宅の流通が不活発かわかります。

中古住宅の流通が活発という事は住宅が資産としてしっかりと評価され継承されているという事を示します。反対に中古住宅の流通が活発でない日本では住宅に対する資産評価が低く、継承されにくいという事を示します。実際日本の一戸建ては20年で資産価値がなくなるとされます。家一軒建てるのに必要なお金は相当の物です。にもかかわらず、20年経てばそれが霧散してしまうのです。それどころかとり壊し費用がかかるという理由で土地の値段まで下げなければならない事がほとんどという有様。これでは住宅資産が着実に蓄積している欧米諸国に比べて、いつまでたっても日本人一人一人の資産が増えるはずもありませんね。

欧米では住宅が子、孫、ひ孫へと受け継がれていきます。そうでなくとも、住宅は長期にその資産価値を保ち、中古住宅市場で他者の手に渡っていきます。日本では35年とか気の長くなるような年月をローンの返済に費やし、それを子孫に継承させる事さえできないわけです。住宅を引き継ぎ、住いは当然ある状態で人生をスタートする欧米と各世代でまずは住宅を確保するためにその多くの時間を費やす日本とでどちらがクオリティーの高い生活を過ごせるのかは明白です。皆さんは一度でも疑問に思った事はありませんか?ヨーロッパの国々はどうして2か月も3か月も休暇を取りバカンスを楽しめるのか。その理由の一つがこうした住宅ストックの有効活用と継承に求められます。日本のように家を建てても20年で価値がなくなってしまうなら、住宅が資産として蓄積されようはずもありません。世代を経るために国民一人一人が豊かさを享受するためには、中古住宅の流通が必要だとの考えに至るのです。

こうして考えてみると、日本における中古住宅の流通をより活発化させることは、社会に資本を蓄積させ、国民一人一人の生活を豊かにするために必要な事と言えます。そもそも耐久性の高い質の良い住宅を建てる。そして、適宜メンテナンスを行い、住宅の資産価値を維持する。そしていざ売却する際にはホームインスペクションによる評価を一つの目安として買い手が安心して購入に踏み切れるようにする。ひいてはそれが空家の減少にもつながる事でしょう。

何故日本では新築ばかり流通する?

高度成長期の日本では人口も急速に増え、住宅の確保こそが社会の喫緊の課題でした。国民それぞれの経済力も増し、住宅は欲しいが「もの」がない。そんな状況を改善するために、住宅の質はとりあえずおいといて、多少不便な場所でもいいからと住宅を増やし続けたのです。もちろん、高品質な住宅もあったでしょう。しかし、外目にはどれが良くてどれが悪いのかはわからない。ましてや、建物のスペックが誰にでもわかるように示せない、メンテナンスの記録もないとなると、一律に築後20年経てば評価はゼロになるという事にして、どんどん建てて、古くなったら壊してまた建てるとした方が効率的だったのでしょう。そうした大量生産大量消費型住宅供給の在り方が崩れ始めたのは景気が停滞し、人口が減少し始めたせいでもあるでしょう。

人口が減り続ける中で次から次へと新築住宅を増やし続ければ空き家が増えるのも当然です。中古住宅は20年という短い期限を迫られ、どうしても魅力に乏しく人の目に映ってしまいます。するとなかなか売れない。相も変わらず新築住宅メインの不動産市場が続いてきたのです。

中古住宅を流通させるには?

中古住宅を売買するにあたり挙げられるデメリットとして「物件ごとの品質等に差がある」という点があります。日本の伝統的な在来工法(木造軸組み工法ともいう)は現地で木材を加工して作り上げます。その為加工を行う大工さんの技量の差がどうしても出てしまうのです。さらに、問題を複雑にしているのが、発注者と施行者さらには元請、下請け、孫請けと言う建築業界特有の構造です。

大元となる発注者がコストや収益優先ならば品質は二の次になってしまうでしょう。施工側としては支払われる金額以上の仕事はどうやっても無理です。川上からしてダメならば川下がいいはずがないではありませんか。次に施行者側です。発注者としては品質にこだわり、良いものを提供しようとする意思があったとしても、建築を請け負い実際に現場で仕事をする者の意識が低かったならば高品質を期待する事はできません。さらに、一次下請け(発注者から直接施行を請け負った者)が優良でも、二次下請や三次請けが手抜きなどしてしまえばそれまでです。

川上から川下まで一定のレベルに達していて初めて品質が見込めるというのはなかなかに難しい事です。管理体制が整い、チェック機能が十分に働く環境を作り上げるのはどの社会でも簡単ではないからです。

これらをクリアするために必要な事は

  1. 技量の差によって差が生じない住宅づくり
  2. 会社それぞれの自浄作用に過度の期待はせず、第三者のチェック機能を働かせる
  3. 従来と異なる高耐久な住宅造り
  4. 購入者にわかりやすい住宅評価基準の提供

の四点が必要になると思います。

1、技量の差によって差が生じない住宅づくり

現在普及している「プレカット工法」による建築は一つの有効な手段となっています。住宅造りで用いる建材を工場でコンピュータ制御された機械によって高精度に加工するため、一定の品質を確保する事ができます。これにより工期短縮や人件費節減も見込めます。

2、会社それぞれの自浄作用に過度の期待はせず、第三者のチェック機能を働かせる

建築確認申請の公正性瑕疵担保責任法に基づく住宅瑕疵担保責任と住宅瑕疵担保履行法による外部調査機関からのチェック、そして住宅性能表示制度による可視化できる基準が挙げられます。

建築確認申請の公正性

住宅を建てる上で守らなければならないのが建築基準法です。そして、法に定められた建築物や地域で建築しようとする場合、建築主は申請書により建築確認を受けて、確認済証の交付を受けなければなりません。かつては建築確認申請が形骸化し多くはきちんとした手順を踏んでいたとしても、一部不正を犯す事例もありました。建築確認書は建築基準法を遵守している事を書面で示すものです。この書類が交付されている事実こそが、人々が安心して住宅に住める拠り所となっているにもかかわらず、その書面自体に信頼が置けないとしたら一体何を信じたらよいのかわからなくなってしまいます。

建築基準法は大地震などの災害によって適宜改正を行ってきました。現在の基準法の元で建てられた住宅なら、相当な地震でも倒壊する事はありません。地震による被害は多く場合、家屋の倒壊によるものなのですから、大きな揺れでも倒れさえしなければ尊い命が守られと考えられるのです。だからこそ建築確認が適正に行われ、信頼できるものである事が極めて重要なのです。

かつて、耐震偽装問題が起こった時に社会は揺れに揺れました。住いに対する不安が一気に膨れ上がったのです。その結果、一時的に建築確認申請の厳格化が行われたのですが、行きすぎのきらいもあってか、その後緩和されるなどの紆余曲折がありました。

現在は特定行政庁等の審査と構造適合性判定機関の判定により申請が下りる仕組みになっています。

住宅瑕疵担保責任法に基づく瑕疵担保責任及びその前提としての外部調査機関からのチェック

平成12年4月に施行された住宅の品質確保の促進に関する法律(以後品確法と略します)は宅建業者に対して重い責任を課しています。すなわち、新築建物の基本構造部分(柱や梁の主要な部分など)に瑕疵があった場合、引渡し後10年間は瑕疵担保責任を負うというものです。10年という長期にわたって責任を負わせることで品質向上そして消費者保護という効果が見込めるものとなりました。ところで、住宅の供給者に10年にも渡る長い責任を負わせたものの、もしその間にその主体がなくなってしまった場合の救済方法は明示されませんでした。結局会社がつぶれてしまえば泣き寝入りするしかなくなってしまうのです。そこで、平成21年10月1日「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(略して「住宅瑕疵担保履行法」)」が施行され、宅建業者は瑕疵担保責任保険への加入若しくは供託が義務付けられました。つまり、住宅に欠陥があり、そのために住宅の補修を行わなければならない場合に、引渡から10年間については、一義的には売主が補修する義務を負い、万一その売主が倒産していたとしても保険又は供託されていた資金で救済されるという事です。

住宅性能表示制度

住宅性能表示は前項で触れた品確法に基づき制度化されたものです。これは住宅について幾つかの項目を設け、それぞれ等級によって性能を表すものです。基本的に等級1が建築基準法と同程度(つまり建築基準法を遵守しているレベル)となり、等級2、等級3と数字が上がるにつれより優れた性能を保持する事を示します。項目ごとに最高等級の数字が異なり、例えば耐震だと等級3が最高等級となります。

前二項とは異なり任意の制度であるため、採用するしないは売主次第です。採用しないからといって建築できないとか責任を負わされるということはありません。買う側にとっては可視化できる基準が提供される、トラブル時に指定住宅紛争処理機関を利用できる、あるいは住宅ローンの優遇が受けられるなどのメリットがある反面、売る側は経費が増えてしまうため、制度利用に対するモチベーションはなかなか上がりません。ただ、より品質の高い住宅供給を望む声が多くなれば、この制度がもっと普及していくのではないでしょうか。

以上が建築における品質の保持について求められる事項でありました。さらに、長期優良住宅のように3世代100年に渡って受け継がれる高耐久の住宅を作る事が住宅流通を促す基礎となる事でしょう。品質が良くても長期に強度を保てる住宅でなければ数次に渡って継承される事は難しいからです。

3、従来と異なる高耐久な住宅造り

建築基準法に準拠して建て、技量に左右されない均一な仕上がりと品質を持つ住宅を建てる事で住宅に対する信頼が回復します。後は耐久性です。20年で評価ゼロとなるような構造ではなく、まずは100年程度長持ちする住宅を作ろうという試みがあります。日本では古来より木造建築が住宅供給における根幹をなしてきました。森林におおわれた国土、湿気の多い気候、構造材に木が用いられてきたのは当然の帰結かもしれません。そうした伝統を継承し後世に伝えていく事もまた大切な事です。ビルやマンションならいざ知らず、一戸建て住宅は今後も木材がその主役を担っていく事でしょう。そうなると100年を超える耐久性を求める事はなかなかに難しい事です。しかも地震大国日本の事ですから、過度に強度を求めても、長い年月の間には自然の大きな力によってダメージを受けるリスクが増します。ある意味木という再生可能な資源を用いてきたからこそ、地震の頻発するわが国でも、私達の祖先たちはたくましく損壊と再建を繰り返しつつも生き抜いて来れたのかもしれません。

では親・子・孫三代100年に渡る住宅を作るための施策としてどんな事が行われているか。それが長期優良住宅の認定制度です。長期間の使用に耐えられる一定の住宅性能と維持管理の計画について一定の基準を満たすと長期優良住宅と認定され、ローン減税やその他の税制優遇措置を受ける事がでるというもの。長期固定金利フラット35S金利Aプランにおける技術基準「耐久性・可変性」をクリアしているものとして、その利用が可能となります。

単に高耐久の住宅を作れと呼びかけてもなかなかに事は進みません。そこで、長期優良住宅と認められるとメリットもあるよ!とニンジンをぶら下げる事も忘れてないという事ですね。供給側にも優良な住宅を供給しているという金看板が使えるという事でもあります。長期優良住宅として認定されるような家を作り、計画的にメンテナンスを行い、20年経っても資産価値を保ち続けるならば、資産をしっかりと後世に引き継ぐ事ができます。そして、なんとなれば中古住宅として他者に売却もできるわけです。こうしてようやく市場に魅力的な中古住宅が流通するようになる事でしょう。長期優良住宅の認定基準などの詳細は「長期優良住宅、100年の住宅を目指して」でご確認ください。

4、購入者にわかりやすい住宅評価基準の提供

これまで見てきたようにこのまま空き家が増え続ける事はいい事ではありません。住環境の悪化、資産の消失、そして国民それぞれの資産形成を阻害してしまいます。そうならないためには中古住宅をより身近に、より取得しやすいものとし、もっと流通させなければならないのです。誰の目にも品質のしっかりとした高耐久な住宅を建て、その維持管理に努め、子や孫に引き継がせていく。そうでなくても、欲しがっている他の誰かに売却するという循環が成立して初めて空き家問題も解決されるのでしょう。

そして、住宅をいざ売りに出した場合に、今どんな状態あるのか、その現在地を知るための一つの手段がホームインスペクションです。ホームインスペクションとは、住宅に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が、第三者的な立場から、また専門家の見地から、住宅の劣化状況、欠陥の有無、改修すべき箇所やその時期、おおよその費用などを見きわめ、アドバイスを行う専門業務の事です。住宅インスペクションとか、単にインスペクションなどとも呼ばれます。基本は目視による診断で、瑕疵の有無を判定したり、瑕疵がない事、または建築基関係法令等への適合性を証明するものではありません。壁や床を剥いで徹底的に調査するわけでもありません。しかし、住宅についての専門知識に乏しい一般の購入予定者が自分の目で判断しなければならない今の状況からは一歩前進できるでしょう。

平成28年6月3日公布された宅建業法の改正はこうした流れを後押しします。この改正のポイントは「媒介書面に建物状況調査事業者の「あっせん」に関する事項」「重要事項説明書に建物状況調査実施状況等に関する事項」を追加し、状況調査を行った場合「建物の状況の確認事項を記載した書面の交付義務」が課される事となりました。この辺りの事は「今後増えていくホームインスペクション」でご説明しているのでお時間がございましたらどうぞ。

簡単に言えば、売主が売却に踏み出す初期段階でインスペクションについて説明し、要望があれば業者を紹介する。これは売主にインスペクションを促す効果が見込まれます。その後購入希望者が現れ売買契約をする際には、重要事項説明の際にインスペクションをしたかどうか、したならその書面を交付するとしたのです。これにより、買主はインスペクションの有無を確認して最終決断をする事ができるという事になります。

大げさな言い方かもしれませんが、今まさにインスペクションの夜明けを迎えようとしているのかもしれませんね。

上へ戻る